2015.07.22[水] 農業の規制に、新基準   ARfDを知っていますか?

この記事は農業の規制に新基準 (栄養と料理_2015年7月号)に記載されたものを
そのまま転記しています。

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農産物の栽培時に農薬が使われると、農産物やそれを原料とした加工食品
に農薬が残留する場合があります。現在の農薬は分解性が高く、農地で使用
されたあとにすぐ分解が始まるので、店頭に並ぶ農産物の5~6割からはもう
農薬は検出されない、という調査結果もあります。農薬が残留する場合も、
国が科学的根拠に基づいて残留基準を設定し、それを上まわらないように
することで、食べる人の安全を守っています。
これまでは一日摂取許容量(ADI)という基準を基にして、農薬の使用方法
や回数、残留基準が決められていました。しかし、昨年から急性参照用量
(ARfD)も考慮するようになりました。農薬の規制は強化されたのです。
今後は、ARfDという言葉がニュースに登場するケースも増えてくるでしょう。
解説します。
■慢性暴露評価はADIで判断
農薬は農業に欠かせません。無農薬栽培は可能ですが、病害虫や雑草の被害を
受けやすく生産が安定せず、収量(単位面積あたりの収穫量)も減ります。農薬
なしでは世界の人々の食をまかなえないことを、国連食料農業機関(FAO)も
認めています。
そのため、栽培時に農薬を必要な分だけ用いて虫や病原菌、雑草などを防ぎ、
収穫した農産物に、人の体に影響の出ない量が残留することを許容して管理して
いく方法がとられています。
具体的には、マウスやラットなどの動物に長期間農薬を与えて影響をい見たり、
発がん性を調べたり、2世代以上にわたって農薬を与え続けて、繁殖に異常がない
か確認したり、さまざまな試験を行なって、有害な影響が出ない量を求めます。
これが、無毒性量です。

一般に、動物より人のほうが強健なので、この無毒性量を人に当てはめても
だいじょうぶかもしれません。しかし、人が動物より弱いという可能性や、人でも
個人差が大きいことを加味して、無毒性量を安全係数(通常は、100という数で用いる)
で割った数値を、人の一日摂取許容量(ADI)としています。人が毎日一生涯
にわたってこの量を摂取しても、悪影響がないと推定される量です。
日本では、農薬メーカーがこれらたくさんの試験を行なってデータを国に提出し、
食品安全委員会が諸外国での試験結果なども考慮に入れて審議し、ADIを決定
します。
その後に、厚生労働省が各農産物の残留基準を決めます。農薬は、使用するとその
農産物の残留量は当然高くなりますが、使われない場合には残留しません。残った
農薬も日に追うごとに分解され濃度は低下します。専門家を集めた審議会で、これら
のことを勘案しながら、農薬ごとに使ってよい作物、使用方法、使用量、農産物の
残留基準を決定します。結果的に、残留基準はその農薬が使用される農産物では高め
に、使われない農産物では低くなります。
そして、人が一日にさまざまな食品を摂取してもADIを超えないようにします。
このあたりの作業は非常に複雑です。専門家や厚労省、農林水産省などが、実際の
農業現場でのその農薬の必要度等も検討し、案として決めていくのです。パブリック
コメントを経て、最終決定されます。これを「慢性暴露評価」と呼びます。

実際には、農産物に残留基準のような量が残留していることはまれで、冒頭で書いた
ように検出されないこともしばしば。しかし、残留量を過大に見積もってその農薬
を使える農産物を制限するなどして、日々の「食の安全」を守っているのです。

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表 ADIとARfDの違い

○一日摂取許容量(ADI)
人がある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康に悪影響がないと
推定される一日あたりの摂取量。一日にさまざまな農産物を食べてもADIを
超えないように、農薬の使用方法や使用量、対象農産物などを決める。

○急性参照用量(ARfD)
人がある物質を24時間またはそれより短い時間に口から摂取した場合に、健康
に悪影響がないと推定させる一日あたりの摂取量。大量に農薬が残留している
農産物を最大量食べる、と仮定し、その場合でもARfDを超えることがない
ように、農薬の使用方法や使用量、対象農産物などを決める。

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■始まった急性暴露評価
ただし、気になるのは、ADIに基づく規制は平均値を基にしていること。農薬は、
適切に使用されていても、作物の大きさや形、畑で植えられている位置等により、
それぞれの農産物につく量にばらつきが生じます。一般財団法人残留農薬研究所の
調査によれば、同じように農薬が使われても、3倍くらいの濃度の違いがあった、と
いうことです。
もし、農薬濃度が高い農産物をたまたま極端に多く食べたら、その日のその農薬の
摂取量はかなりの量になる可能性があります。健康に影響は出ないでしょうか?
また、食品の摂取量には個人差があり、たとえば米は、国民の平均摂取量と非常に
多く食べる人の摂取量は2倍程度です。ところが、野菜だとその差が広がり、たとえば
ケールは、国民の一日の平均摂取量は0.2g。ところが際立って多い人ではなんと160g
です。ケールを健康によいと信じて極端に食べている人がいるのです。
仮に農薬の残留濃度が高めのケールを160g食べたとしても健康に影響が出ないように、
そして、ほかのどの農産物でも同じような問題が生じないように農薬の使用を管理
しなければ、と新たに導入されたのが「急性暴露評価」であり、急性参照用量
(ARfD)という基準です。人が24時間またはそれより短い時間に経口摂取した場合
に、健康に悪影響を示さないと推定される一日あたりの摂取量のことです。
まだ少しわかりにくいでしょうか。ほかの物質で考えてみましょう。たとえば、食塩は
高血圧などを防ぐために「一日の摂取量を5g未満にしましょう」と世界保健機関(WHO)
は勧告しています。確かに、健康のために努力したい。でも「干物や塩辛、ラーメンなど
食べすぎて、今日だけ、20gも食べてしまった」という日もあるでしょう。だからといって、
この日に急に体調をくずすわけではありませんね。だったら、一日に何gまでであれば、
急性症状が出ないのでしょうか?動物実験から推測して、一回に食塩を150g食べると死亡
すると見られています。では、何gまでならだいじょうぶ?
慢性的な影響だけでなく、このようなめったにない大量摂取による急性影響についても各
農薬についてきちんと検討して設けられるのが、ARfDなのです。
諸外国や国際機関では、かなり以前から急性暴露評価が始まっており、日本も遅れて2014年
に始まりました。ADIを決める際には、動物に長期に少しずつ農薬を与える実験を複数
行い、それを根拠に無毒性量とADIを決定します。一方、ARfDはごく短期間で大量に
食べることを想定しているので、動物実験も一度に大量に与える「急性毒性試験」「急性神経
毒性試験」を中心に、発生毒性試験、繁殖試験、それに人が誤って摂取した事故の結果等も
加味して検討し、そこから導き出された「無毒性量」を安全係数(通常は100を用いる)で
割って、ARfDとします。食品安全委員会が数値を決定します。
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図 農薬の残留基準設定の流れ
出典:厚生労働省資料

動物による毒性試験

無毒性量×安全係数

【食品安全委員会】
一日摂取許容量(ADI)
急性参照用量(ARfD)

↓暴露評価
↓農産物の残留試験結果

【厚生労働省】
農薬の残留基準

↓国内で使用される農薬

【農林水産省】
農薬の登録等

安全係数として通常は100を用いる。無毒性量を100で割って(1/100を掛け算して)、
ADIやARfDを設定する作業を、食品安全委員会が担当する。その後、厚生省
が各農産物における残留基準、農水省が農薬の使用回数や使用量、使ってよい作物
(農産物)などを決定する。

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■使用できる農産物が減った農薬も
ARfDの設定は、農薬の使用方法や使用量、残留基準等にも影響します。
農薬は、必要があって使われます。農業現場からは、「この農産物に使えるようにして」
「あちらにも」と要望が数多く農薬メーカーに届きます。しかし、多種類の農産物に使える
ようにすると、それぞれの残留量は少なくても、一日のトータルでの摂取量が増えて、ADI
を超えてしまう、というようなことも起こりえます。
そのため、農薬メーカーはこれまでも農水省と相談しながら、それぞれの農薬について使える
農産物を制限するなどしてきました。ARfDの設定により、使える農産物がさらに搾り込まれ
たり、使用回数を減らさなければならない農薬が出てくることが予想されます。食品安全委員会
の審議は、膨大なデータを検証するので時間がかかります。そこで、農薬メーカーは農水省の
要請を受け、食品安全委員会の審議より先に、みずからデータを検討して、改善をはかり備える
ことになりました。
その結果、これまでその農薬を使って栽培できたものが、今年からは使えなくなった、とか、
使える回数が減った、というような事例も、数はごくわずかなのですが生まれています。生産者
が知らずに使うと、残留基準を超過してしまう可能性もあります。そのため、各県やJAなどは
生産者に盛んに注意を呼びかけています。
■事件・事故のときもARfDで判断
ARfdの設定は、突発的な事件や事故への対応にも役立ちます。たとえば、2013年12月に明らか
になった冷凍食品への農薬混入事件。工場の従業員が農薬を持ち込み冷凍食品へふりかけ、農薬が
最高で1万5000ppm検出されました。
このような事件・事故により農薬が一回で大量に摂取されてしまう場合、健康影響が出るか出ない
かが重大な意味を持ちます。出る可能性があるのなら、回収を急がなければなりませんし、新聞や
テレビなども大きく報じて「食べないで」と市民に呼びかけ、協力する必要があります。判断の際
には、毎日一生涯食べ続けても健康影響が出ない量であるADIではなく、ARfDと比べるべき
です。
冷凍食品農薬混入事件では、ARfDが設定されていなかったために企業の判断が混乱しました。
こうした事情もあり、国はARfDの設定を急ぐことにしました。
ただし、今後もし、ARfDとの比較による回収が行なわれた際には、「ARfDを超えているから
健康に影響が出る」というふうに勘違いしないでください。ARfDは「これを超えなければ、健康
には悪影響を示さない」と判断できる数値です。違いがわかりますか?
動物実験や人の事故等の事例を基にして「この数値なら、健康影響は出ない」とされた数値を安全
係数である100などの数で割ったのがARfDですから、相当に安全寄りできびしい基準になって
いるのです。
ああ、ややこしい。でも、こんなふうにして農薬はきびしく規制されています。
今後、「農薬の残留基準値超過により農産物を回収。基準値の数百倍」というようなニュースを
知ったときには、倍率の大きさに驚くのではなく、ADIやARfDを超過しているかどうかで
リスクを判断してください。マスメディアではこれらの数値は報じられないかもしれませんが、
自治体や国などが発表するはずです。「消費者の食の安全」と「妥当な価格での安定生産と提供」
を両立させようと農業を注意して使っている生産者の努力にも思いを馳せていただければ、と思い
ます。
もう一つ大事なこと。特定の食品・農産物を極端に多く食べるのは、農薬摂取の観点からもよく
ありません。食事は、多品目をバランスよくとりましょう。
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[農薬の一日あたり摂取量は多くてもADIの数%]

私たちは、一日にどの程度の農薬を摂取しているのでしょうか?
厚生省が、自治体の衛生研究所の協力を得て、毎年調査しています。
2011年度は84、12年度は105の農薬について、モデル献立を作り
調理が必要なものについても調理も行わない、おやつや飲料水なども
含めて、農薬の含有量を測定しました。自治体の17の研究所がそれぞれ、
試料を調整し綿密な分析を行ったのです。
その結果、11年度は3つ、12年度は8つの農薬が検出されました。含有量
は、ADIの0.02%~6.17%にとどまりました。それ以外の農薬は分析
しても出ませんでした。こうした調査も、農薬の安全使用のしくみを
支えています。

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この記事は農業の規制に新基準 (栄養と料理_2015年7月号)に記載されたものを
そのまま転記しています。

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kazuko on 7月 22nd 2015 in 勉強しています,  ・野菜の表示・法律のこと

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